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R3Magazine-Web アルバム作品レビュー レビュー

ありのままに、だからこそ美しい 夕立P/ウィルダネスの恋人

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※楽曲作曲者に関して、当アルバム内においては複数人分の名義が出てきますが、これらはすべて同一人物です。当レビューにおいては各楽曲ベースの名義において、ニコニコ動画あるいは各種SNS(Twitter, Mustdon)においての発表時の名義にて執筆しておりますので、事前にご了承ください。

ウィルダネスの恋人について

 1stアルバム以降のリリース以降、多数の楽曲を多数の名義でリリースしてきた夕立P氏。1stリリース後には名義を変更して活動し、2ndアルバムを「ごめんなさい言えるかな (i'm sorry in my heart = 雨宮通心)」名義でリリースしていた。それからまた再び名義を戻して、3rdアルバム『LovePotion』は、夕立Pの名義でリリースされている。(3rdには一部、「七海名波 (ななみ。)」と「葛城明 (akiragi)」の楽曲も収録)

 続けてリリースされた4thアルバムである今作『ウィルダネスの恋人』と、同時リリースの5thアルバム『LIMBO』は、その殆どが「七海名波」により、一部が「eyeless. (あいれす。)」によりリリースされた楽曲を収録している。いわば、この二枚を対として「七海名波」としてリリースした楽曲のベストアルバム(一部VOCAL変更があるが)といって良い。

 当アルバム『ウィルダネスの恋人』では、「七海名波」と「eyeless.」が得意とする多種多様な音楽的融合…今回は特に、ミステリアスで神秘的な民族調(エポック)たる美しさを中心に、比較的明るい(それでも悲しい)曲調と希望が折り混ざったエモーショナルな衝動、あるいは、今やその悲しみをリアルリズムにザクリと表現した、ルサンチマンたる「虚無」といったものが表現されている。(なお、同時リリースの『LIMBO』の方では、より鬱々とした救いようのない絶望感で溢れているので、『ウィルダネスの恋人』とついにしてお聴きいただきたい。)

各楽曲Review

1.終わる生命と、それでも始まる世界に手向けの花を feat.結月ゆかり, IA
飾り気を廃した、実に淡白な幻想曲。さっぱりというよりは、平穏で自然体な心地よい落ち着きで、実にすっきりとしている。そして、すっきりとしているのにしっかりとした膨らみがある。月がゆっくりと満ちるように、水がすこしずつ溢れるように、悲しさと希望が半々と混じり、そして少しずつ消えてゆく。水面に広がる波紋のようにゆったりと、心地よく揺れるゆく。

2.Bluegale Syndrome feat.結月ゆかり, IA
ダイナミックでパワフルな、うねりが躍動感あるボカロインスト。結月ゆかりとIAの、豊かに膨らむユニゾンが心地よい。鶏肉製造所 『民族調コンピレーションアルバム「Ethniqa2nd」』 Disc『Majestic』の収録曲 (Tr.10)であるように、民族調の楽曲。南国的でエキゾチックな雰囲気に、中華風なテイストも混ざっているが、ベースなどは完全にロックテイストで、多種多様なテイストを含んでいる。パーカッションやシンバル・ストリングス・ベースにギターなど、楽器も多種多様で面白さを感じる。

3.颯、その後で feat.結月ゆかり
ふとした瞬間に感じた世界の大きさの中で、自己の存在を見失った惑い。今まで信じていたものが、儚く壊れて消えていく喪失感。そして、延々とした時の流れの中でただの通過点でしかない、今この瞬間の無力さ。それらをありのままに捉え、そして受け入れることを描いた美しい鬱曲。。ルサンチマンとした、鬱々として虚ろで無情な「今」と「私」を、清らかで澄み切った―力強く元気のある「颯」が過ぎ去ったという、時間の経過とイメージでザクリと切り取っている。

4.フラジャイル・サイレンス
当アルバムの唯一の純粋なインスト楽曲。月並みで典型的な表現をするならば、ミステリアスで幻想的な(あるいは神秘的で怪しげな)曲。薄暗いスピリチュアルな森林の奥地の霧の中にで、迷い込むかのような不透明な曲。これだけ多くの音がなっているのにギリギリうるさく感じない程度で抑えられている。4分の長さは眠気を誘うのに十分に長く、ふと瞑想の世界に旅立ちそうになってしまう。本来であれば十分にうるさいと思える程度に音が多い曲ではあるが、すぅっと、溶けてゆく意識の澄み切った緊張感ある「無」に、静寂さを見た曲かと思う。

5.トロイメライとペシミスト feat.結月ゆかり, IA
軽快でサイバネティックな感じだが、未来的なクールさではなく。"冷ややか"な冷めた感情の抑圧を感じる。クラブミュージックではあるが、どこか寂しさを感じるメロディーとドラムンが、はやりつつもそれは強く理性的である。子供が抱くような純粋な、怖さへの怯えがなぜだか妙に美しく見える。暖かなというような夢のような甘さではなく、現実への悲観的な「リアリズム」の観測。一方で、子供の抱く「幼い甘さ」がにじみ出る。それらが混ざって、なお、そのリアルが美しく見える。

6.ウィルダネスの恋人 feat.結月ゆかり, IA
遠く遠くまで、虚しさが込み上がる。神話・寓話・とくにインディアン(原住民族)的な単調としてときには愚かにも見える―ような。美しいようなものでも、力強さを感じるようなものでもなく、土着的・呪術的な信仰の「神秘的で崇高的な」面を、盲目的にあるいはうすっぺらな狂信さで見るのではなく、人の心という面での個からみた「慈しみ(心情・愛情)」を、ノスタルジックにかつ退廃的に描き出そうとしている。

7.龍の伝説といけにえの少女 feat.結月ゆかり, IA
こちらも前曲と同じく、呪術的な信仰に対して、個からみ心情を描きだしている。しかしながら、前曲とは逆に「盲目的かつ狂信的で滑稽な価値観」として否定的に捉えている。信仰対象と生贄の視点を切り替えることで、「誰も救われず、誰も喜ぶことのない、皮肉で愚かでどうしようもないものにもてあそばれる、"いのち"を巡る儚き物語」を美しく表現している。幻想的で情緒的で美しい音楽に歌われるのは、美談でも英霊譚でもなく、いのちと無力な只の幻想の果てに、交わることなき虚無がただそこにあるだけだ。

8.蘇生 feat.結月ゆかり, IA
「トロイメライとペシミスト」と同じく、シンセティックなダンスミュージックの要素をとりいれた一曲。グッっと体に響く電子ドラムのリズムと、ビリビリとしたシンセの音が支配的しているが、メインとなるメロディはピアノによる美しいが硬い旋律である。ちぐはぐとしてザクリザクリと切り潰すかのような引きだが、実像というよりはむしろ虚(うつろ)な幻のような"なにもない"のに、ずるりとした空気感がもやもやとする。

まとめ

 決して華やかなアルバムとは言い難いが、どの曲もそれぞれちがった「人間の心の美しさ」が、悲しみ・虚無をもってもそれでもなお前向きに、生への執着をもって、描かれている。場合によってはなお醜く思えるかのようなそれが、「だからこそ美しい」と、胸を張って言える。そんなアルバムだ。

"夕立P" 4thアルバム VOCALOID 結月ゆかり + IAアルバム『ウィルダネスの恋人』

文責:STERN

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