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R3Magazine-Web コラム

ファストフード・ミュージックあるいは新たな音楽世界の黎明

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音楽、聴いてますか?

ときに、同人創作界隈で頑張っていらっしゃるそこのあなた、音楽を聴いてますか?いや、当たり前だろと今返したい気持ちは山々なのですが、いまわたしが訊いているのはその体験の形式でございます。いかがでしょう?パソコンでスピーカーから音楽を流していますか。スマホにイヤホンをつないで通勤通学の最中に聴いていますか。いずれも良い方法ですね。さて、その音楽、YouTubeとかニコニコで「拾った」音楽だったりしませんか?
本コラムでは、「音楽を聴く」という体験について、いったん立ち止まって考えてみることにしましょう。

聴き方のいろいろ

iPodを初めとした音楽プレーヤーの発売を皮切りに音楽の聴き方は多様化の一途をたどっており、スマホの普及やストリーミングサービスによって購買の方法すらも様変わりしつつあります。さらに注目すべきはYouTubeやSNSによる視聴であり、広告代理店の博報堂の調査[1]によるとYouTubeやTwitterによる音楽に対する行動の利用率が高く推移しています。
このことから何が想像できるか?そう、「CDを買わないでネットでタダで済ませる層」の比率が高いかも、ということです。MVを一本上げているアーティストに加え、違法にアップロードされた音源なんて探してみればYouTube上に星の数ほど存在しています。それを知っているのであれば、わざわざCDなんか買わずとも、それだけで満足してしまえますよね。実際これは統計上の数字としても表れており、日本レコード協会の2017年度調査[2]によっても明らかにされています。
一方CDに目を向けてみるといかがでしょう。オリコンのランキングを毎度支配しているのはアイドルソングですね。あのランキングが基準とするのは売上ですから、音源と別の限定特典でもくっつければ一人あたりの購入数はいくらでも増やすことができますよね。結果的に、「音源の完成度で競争しない音楽のランキング」といういびつなものができあがります。
ああ、リスナーにはタダで聴かれるわ、刹那的な売り方で「20年30年後も歌われ聴かれる名曲」になるか怪しいわで、前者にしろ後者にしろ、音楽の寿命を縮め資産的な価値を貶めるような行為になってしまっているように思えます。例えるならば、一口目で美味しいと思わせるために、やたら塩辛い味付けにしてあるファストフードのような存在でございます。

ファンベースという希望

さて、前述のような現実も存在する一方で、引用しました日本レコード協会の調査に再び目を向けてみますと、もうひとつ興味深い情報が載っています。さきほど「買わない層が増えてる」という趣旨のお話をYouTubeを引き合いに出して述べましたが、一方で、CDやダウンロード配信による購入も堅実に存在しており、2016年比で、2017年は音楽を購入して聴く「有料聴取層」が増加傾向にあることが分かっています。そして、有料聴取層の購入の動機に目を向けると、「アーティストが好きだから」という理由がダントツであり、次いで「楽曲/映像を気に入ったから」「モノとして所有しておきたかったから」という理由が並びます。そのアーティストを応援する意志のある人は、やはりお金を出してくれるという予測ができますね。同調査の「音楽にお金を支払いたいと思う条件は?」という質問に対しても、価格の安さやサービスの質などを差し置いて「魅力的なアーティストや楽曲に出会う」という理由が一位です。割合は年度別に見ると減少傾向ではありますが、依然として高い水準を保っていると言えるでしょう。
このことから考察すると、「ファンは裏切らない」というシンプルな事実が見えてくるように思えます。音楽のほかのビジネスでもこの傾向は無視できない要素になってきたようで、佐藤尚之『ファンベース』では、この点に着目し、ファンに愛され、支えられ、そして熱狂されることの重要さが説かれています[3]。ファンの語源は「fanatic(狂信者)」。ここにファストフード化の潮流に抗うヒントが示されているように思えます。

同人という聖域

ファストフード化する音楽文化の話は商業音楽の分野とそのリスナーで見られるようですが、それと対局にあり、かつ商業の大人の事情のようなものがほぼ絡まない聖域が日本には存在します。そう、同人音楽です。
同人音楽即売会は、端から見ると「カネかけて自主制作したCDを10万人以上がわざわざ集まって買い求める」という、今の時代を冷静に考えると非常に奇妙な催しになっています。なぜこのような現象が発生するのでしょう?この問いについては、前述のファンの考え方がヒントになりそうです。
SNSの普及も手伝って、同人音楽というのは作り手と聴き手、あるいは作り手同士の密接なつながりによって音楽体験が担保をされる傾向にあります。従いまして、必然的に、会って、CDを手にとって、コミュニケーションをして……という体験が存在し、そこに「YouTubeでいいや」みたいな行為が挟まる余地がありません。まさに、前述の日本レコード協会の調査で言うところの「魅力的なアーティストや楽曲に会う」という体験を常に提供し続ける場として機能しているわけです。こんな貴重な場所、ないがしろにはできません。そして、その場を楽しめる時代に生きていることを深く受け止める必要があるのかもしれません。
仮にファストフード化によって商業音楽の文化がおかしなことになっていったとしても、それを軌道修正し、本来の音楽体験を再興し、これからの音楽文化という環境を保全し、成長させるだけのエネルギーが、同人音楽という特異点には眠っているのかもしれません。

……もちろん、「即売会にお客様は居ません」の原理に従って、ひとりひとりが当事者性を捨てずに行動できるならば、の話ですが。

[1]"コンテンツファン消費行動調査2017分析リレーコラム#4(音楽編:前編)「色んなヒットの形があるから音楽は面白い」〜音楽市場のヒットを再定義する時代へ〜", 博報堂, http://www.hakuhodo.co.jp/archives/column/44793

[2]"2017年度 音楽メディアユーザー実態調査 報告書", RIAJ, http://www.riaj.or.jp/f/pdf/report/mediauser/softuser2017.pdf

[3]"ファンベース ――支持され、愛され、長く売れ続けるために", 佐藤尚之, 筑摩書房, 2018

文責:蟻坂 真己(@4risaka)

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