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【コラム】同人音楽と解像度

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ハイレゾと言う言葉が巷をにぎわせている昨今「ハイレゾって何?」に答えてくれる人間はいても、「だれが欲しがるの?」に答えてくれる人間は比較的少ない気がする。ハイレゾはかいつまんで説明すると「高解像度」と言う意味で、ハイレゾ音源は「高解像度音源」となる。

さて、以前、私はtwitterで募集されていたボカロの高解像度音源コンピレーションの末席に加えていただいたことがあるのだが、共同制作を行ったドイツ人に「なぜ高解像度である必要があるのか」を説明するのに難航し、最終的に「そういうコンセプトだから仕方ない!」と半ば強引に押し切った。
「ハイレゾ」があるということは「ローレゾ」もあるわけで、では世に言う「ハイレゾ」は何に対してハイレゾなのかと言うとCDの音質に対して「ハイレゾ」らしい。この「らしい」という表現には意味がある。
私が子供の頃に世の中の音源はレコードやカセットテープから「CD」に取って代わった。この時、周りの大人は「CDの方がテープより音がきれいらしい」と教えてくれた記憶がある。
しかし、カセットテープはアナログ音源なので解像度もへったくれもない。劣化はするがアナログは必ずデジタルより上なのでハイレゾよりカセットテープのほうが上位に位置するはずなのだ。

デジタルとアナログについて少しおさらいしておこう。学生時代のペーパーテストを思い出して欲しい。筆記試験の際、受験者に字を書かせると、採点する人間は字の良し悪しや、線のかすれの影響もモロに受ける。時には受験者が意図としない字と誤認する可能性もある。こちらがアナログ。
対してマークシートでは、採点者は「白と黒」だけ判断すればよいので、多少の濃淡は関係がなくなってしまう。こちらがデジタルになる。

もう少し違った表現を試みてみよう。音は「波」なので、音の世界のデジタルと言うのは滑り台のような波を方眼紙のマス目を塗りつぶして描くように描く。当然、必ず見た目はガタガタになる。対してアナログでは滑り台を見たまま曲線で描くようなものなので、デジタルのようにガタガタにはならない。但しその際は絵を書いた人間の腕がモロに出る事になる。
これらは一長一短でデジタルは音の情報がある程度雑なので劣化が起き難い。しかし、アナログでは記録された瞬間から劣化が始まっていくと考えてもらって問題ない。また、デジタルは複製が容易だ。同じ方眼紙を持ってきて1マスずつ塗れば完璧にコピーできる。
しかし、アナログではそれが出来ない。見て書き写すしかない上に、その際にも描く者の腕が影響する。コピーを繰り返せば繰り返すほど伝言ゲームのように元のニュアンスは失われていく。

デジタルとアナログのこの辺のハナシは音楽を有る程度聞く多くの人間が常識的に知っているハナシだがあえて述べた。釈然としない方はネットを探せばもっと良い文献が探せると思う。
不運にも、今はじめて拙文で「デジタルとアナログ」の違いを知った方がおられたら、是非、どこかで調べなおして頂いて、この後は「十年前から知っていた」ような顔をして頂ければ本望だ。
ここからが問題なのだが音は出力される時点で必ずアナログになる。残念ながらこれは未だ解決出来ていないように思う。理由は簡単、デジタルで入力できる機械はあってもデジタルで出力できるスピーカーが無いから。
だったら「デジタルで出力できるスピーカーを作れよ!」と声を挙げたい所だが、これも「そもそも人間の耳がアナログだから無理」といとも簡単に封殺されてしまう。なのでせいぜい「高解像度なデジタル音源のご利益が薄れないようにアナログに変換したい」と要望するのが限界で、我々の耳に届くまで「ハイレゾ」の音であり続けることを望むのは論理的に無理がある。
しかし、「ローレゾよりハイレゾのほうが音がきれいだった!」と感じている方もいるとは思う。
確かにそういう場合もあるかもしれないが、私は続々とリリースされる「ハイレゾ対応イヤホン」ないし「ハイレゾ対応ヘッドホン」の帯域特性がどうなっているのかに注視する方が先なのではないかと考えている。

私が学生の頃、我が家のテレビは余裕でブラウン管だったが、お茶の間には当時の最先端の液晶テレビのCMが流れていた。液晶テレビがとても美しい映像を写す様子が流れていた。但し、そのCMは我が家のブラウン管テレビで流れていた。家族の為にテレビを購入した父の偉業は称えられるべきだが、当時の私は普及したテレビが我が家にある事に恩を感じていなかったし、ブラウン管で液晶テレビの映像を見てブラウン管よりも美しいと感じている事実にも疑問を抱かなかった。要は私はすっかり騙されていた。
何度もくどいが「ブラウン管に映った液晶テレビの映像を見て液晶は美しい」と考えていた。同じことが音の世界でも可能ではないだろうか?「ハイレゾってすげー!」となるCMをローレゾで作れるのではないか?私はまたもや勝手に騙されているのではないのだろうか。
ハイレゾが普及したら、また上の解像度「スーパーハイレゾ」が出てきて、また同じように「スーパーハイレゾってすげー!」となるのではないか。CD時代の感動は誤解だったことになるのだろうか。

……これがアナログであったら音の品質は青天井で、段階的に解像度を吊り上げられる事は無い。アナログならばライブ演奏を生音で体験していただければそこが音の品質の限界となる。至極分かりやすい。
同人音楽でもそれは可能で、手ごろなステージを借りてチケットを手売りすればハイレゾを超えた音が提供できる。実際にそうやってオリジナルの音楽を発表している人はゴマンといる。
さて、この辺で「ハナシがずれてないか?」と思う方は、「ライブハウス等でオリジナルを演奏するのは同人っぽくないのではないか?」と考えていると言えるだろう。「同人」という言葉の定義からいくと別にライブを排除する必要はないはずだが、コモンセンスとして「同人即売会で販売されないと同人ではない」ととらえる人間が多く居る気がする。
その中では「録音されて同人っぽい人々に向けて発信されて初めて同人音源となる」と仮に言っておかないとパージされかねないかも知れないので空気は読もう。空気を読んだ上で「同人音楽にどれぐらいの解像度を求めるの?」と問題定義してみたい。そして再びハイレゾについて「だれが欲しがるの?」と再質問したい。

ハイレゾで徹頭徹尾音源を作ろうとすると、作り手の選択肢は狭まる。長年、録音再生される音楽の品質は一部の業界を除いてCDの品質によって頭打ちになってきた。デジタル音源を作る側はCD品質を天井に設計していれば特に問題はなかった状態が続いていた。
皆が知っているあのシンセのあの音色はそうした中で長年生きてきた。その中で急に「ハイレゾがー」と言われても人々を熱狂させてきた音色の多くはハイレゾに対応していない。
録音機材をハイレゾ用に一新して生音からのレコーディングは全てハイレゾに対応したとしよう。でもどうしてもキックの音だけは今まで使い慣れたもの……ローレゾのモノを使いたいとしよう。
でも、ハイレゾに対応していない音色を使ったことがバレたら、それが親鳥がハイレゾを運んできてくれるのを巣で待つ小鳥たちにバレてしまったら……その音源は価値を失ってしまうかもしれない。そのようにして最悪の場合「ローレゾ狩り」が起こりはしないだろうか。
ローレゾ狩りによって音楽制作者はかさむ機材費に慄くかもしれない。買う側も「お前の売ってる音源はCDだからローレゾなのになんでそんな値段つけているんだよ?」と言った具合に値切りの根拠になりはしないだろうか。

確かに狩る側の人間は「ハイレゾ対応イヤホン」ないし「ハイレゾ対応ヘッドホン」を所有しているかもしれない。でも、もしも、彼らが普段それで従来の圧縮率のMP3を聞いていたとしたら……もはや両者に和解は見出せないだろう。どちらかが滅びるまで戦うしかないのだ。

冗談はさておき、ハイレゾが悪いわけではない。ハイレゾの登場によってローレゾの価値を貶める必要はないとそれだけの話だ。
ローレゾとハイレゾを聞き分けられる環境や能力が無い者にとってハイレゾは「100%天然由来の水使用」と書いてある飲料と似ている。
「天然由来の水」が何なのか詳しく知らなくとも、「なんとなく良いモノ」のような気がすれば価値は高まる。
「だったら天然由来じゃない水って何?」という外野の声に耳など傾けない。
さて、ここまでハイレゾとローレゾの間に実質的な差は無いかのように述べてきたが、実際にはハイレゾを聞き分けれる人間も、ハイレゾであることでハッキリ音質の違いが体感できる音源や再生装置も存在する。
音楽は自由で、多くの技術が音楽の自由な世界を広げてきたことは間違いない。その観点からすると「音源の解像度」という尺度に「ハイレゾ」という一つの選択肢が加えられたことが悪いわけが無い。
だからと言ってローレゾに分類される音源やMP3を貶す必要は一切ない。くどいようだがそこは強調しておきたい。

文責:古川モトイ(@COOL_METABOLIC

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